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神戸地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決

三木市府内七〇番地

原告

株式会社 屋満五

右代表者代表取締役

光川五一

右訴訟代理人弁護士

井藤誉志雄

三木市

被告

三木税務署長

三宅章

右指定代理人

辻本勇

山内昇

右当事者間の昭和三十年(行)第二号更正決定取消請求事件につき、当裁判所は昭和三十一年五月二十五日終結した口頭弁論に基き、次の通り判決する。

主文

被告が、昭和二十七年九月一日より昭和二十八年八月三十一日迄の事業年度分法人税につき、原告に対してなした所得金額五十二万三千九百円、同税額二十二万三千二十円とする更正決定は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  原告は、洋服類(各種織物)仕立販売兼服装雑貨及び家庭用雑貨品販売業を営む資本金六十万円の会社であるが、被告に対し、昭和二十七年九月一日以降昭和二十八年八月三十一日迄の事業年度所得金額四十四万九千九百円なる旨申告したところ、被告は、昭和二十九年一月九日附をもつて、同所得金額を金五十二万三千九百円、法人税額を金二十二万三千二十円とせる更正処分をなし、その旨通知をうけた原告は、これを不服として、同年二月五日、被告に対し、再調査請求をなしたが、同年四月五日附で右請求を棄却する旨の決定がなされ、その旨通知をうけた。そこで更に原告は、同年同月十五日、訴外大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ、同年十二月二十五日附で、右請求は棄却され、その旨原告は通知をうけた。

(二)  原告の前記申告所得金額は、別表記載の賞与支給額金九万七千円を損金として必要経費に計上し、損益計算した当期利益金であるが、被告は、右賞与中、訴外光川五一、同太平、同しずゑの各支給分合計七万四千円を、役員賞与と誤解して、これを利益処分金として法人課税の対象にしたのであるが、右賞与は、従業員賞与として支給されたもので、夏季及び年末手当として、損金に該当することは明白であるから、本件更正処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

立証として、証人光川しずゑの証言、及び原告会社代表者本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めると述べた。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

(一)  原告主張の請求原因(一)の事実はこれを認める。

(二)  被告が原告主張の本件賞与額を、利益処分金として法人税賦課の対象にしたのは、次の如く正当な根拠に基くものであるから、本件更正処分は適法である。即ち、原告会社は、発行済株式総数の四五・八%を占める株式を光川五一及びその親族が所有する昭和二十九年三月三十一日法律第三十八号による改正前の法人税法第七条の二所定の同族会社であり、右五一が代表取締役(店主)となり、取締役であるその妻、しずゑ及び養子、太平と共に会社を経営しているものであつて、会社役員たる右三名のものが、自ら自己を雇傭するというのは観念論に過ぎず、現実にあり得ぬから、同人等に支給された賞与は純然たる役員賞与であり、到底、損金たる使用人賞与と解せられない。

従つて、右賞与を利益処分金として、原告の当期所得金額に算入した本件更正処分は正当である。

よつて、本訴請求は失当である。

立証として、乙第一、第二号証を提出した。

理由

原告主張の請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

被告は、原告会社が、光川五一、同太平、同しずゑに各支給した賞与合計金七万四千円はいずれも役員賞与に該当するから、利益処分金として法人課税の対象になる旨主張し、原告において、右は従業員賞与であるから損金として所得金額より控除されるべきであると争うので、この点につき判断する。

成立に争いのない乙第一号証の原告会社定款第二十四条の記載によれば、同社の役員賞与は、毎期の総益金より総損金及び繰越損益金を加減した剰余金の百分の十以内において支給する旨明規され、右所定賞与は、会計学上、株主配当金と同様に純益金処分として法人税の賦課対象になることは異論のないところであり、成立に争いのない乙第二号証によれば、本件事業年度中、光川五一は、原告会社の代表取締役に、光川しずゑ、同太平は同社の取締役に夫々就任していたことが認められるけれども、同人等に支給された本件賞与が、右定款所定の純益金中より役員賞与として支給されたとの点についてはこれを肯認するに足る証拠がない。なお、原告会社が被告の主張するような内容の同族会社であることは原告において明らかに争わないところであるけれども、このことから後記認定の如き雇傭関係の成立が否定され、右賞与が役員賞与であるとは断じ難い。却つて、証人光川しずゑの証言及び原告会社代表者本人の供述によれば、本件事業年度中、原告会社において、光川五一は仕入部長(昭和二十七年中は会計主任を兼任)として、商品の仕入取引及び計理事務全般の労務を担当し、光川しずゑは、販売部長として、商品の販売取引全般及び特に婦人子供服の販売面を直接担当し、光川太平は、販売係員として、右しずゑを補助して、販売面の労務に従事し、右三名は、夫々、原告会社と名実共に雇傭関係にあつて、他の女店員と同様、各自労務提供の対価として給与の支給をうけ、何れも役員たる地位と併せ、従業員たる資格を兼有していたこと、及び、右賞与は、夏季及び年末に二分され、代表取締役であつた光川五一が、株主総会の決議を経ずして、その職務権限の範囲内で、会社の利益金の多寡と関係なく、各人の給与額を基準として、稍同率(勤続六ケ月以上の場合は、九〇%乃至一〇〇%)の割合で算定支給していたこと、更に、当時、原告会社において、訴外北井正美は、監査役に、訴外光川五三二は、取締役に夫々就任していたけれども、事実上、従業員として、原告会社の労務に従事していなかつたため、前記賞与の支給をうけなかつたことが、それぞれ認められ、叙上の事実を綜合して考察すると、本件賞与は、会社の業績が高揚した場合にその利益金の割合に応じ、毎営業年度に支給される役員賞与ではなく、物価高による実質給与の低下を調整し、これを補足する意味で支給された所謂使用人賞与であると解するのが相当であつて、他に特段の事情のない以上、同賞与は損金に該当するものと認める外はないから、これを利益処分金と誤認して、法人税賦課の対象とした本件更正処分は、違法である。

従つて、右更正処分の取消を求める本訴請求は、これを正当として認容すべきであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上喜夫 裁判官 谷口照雄 裁判官 大西一夫)

別表 賞与支給額明細表

〈省略〉

合計 ¥ 55,000― 合計 ¥ 42,000―

総計 ¥ 97,000.00

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